ナインブレイカー 〜覚醒〜
AI研究所 プログラミングルーム
「くそッ!何故だ・・・!」
カイは右手ではAIプログラムを打ち込み、左手では別の作業をしていた。
「どこにいる・・・『レッドペイン』・・・!」
「お、おい!カイ!大変なことがわかったぞ!」
「なんだ?」
研究者の一人が、カイにディスクを投げる。
「それを開いてみろ!全てがわかる!」
「・・・全てが?」
AI研究所私有地 森林地帯
1機、真紅のフロートACが疾走する。
まるで自らの性能を確かめるように。
右手に装備された『WR07M−PIXIE3』の射撃サイトと、左手に装備されたELF2の出力を確かめる。
肩に装備されたミサイルも、調子は上々のようだった。
さらにOBを確かめる。真紅の体が一気に加速し、木々をすり抜けてゆく。
真紅のACは自らの体に満足したようだった。
しかし。
そのACのコクピットには、誰も乗っていない。
ACはOut Townへと向かっていた。
Out Town レイヴン居住施設 13−D−5
入り口のほうから、電子音がする。
いつもはここでリェスがぱたぱたと電子音の主に合間見えるところだが、今日は生憎カークしか居なかった。
カークはソファーから腰をあげ、電話へと向かう。
「・・カークだ。」
『カークさん!!大変なことになりました!」
いきなり大声を耳元であげられ、思わず受話器を耳から遠ざけるカーク。
『今すぐガレージに来てください!大至急です!』
その言葉を聞いたカークはすぐさま受話器を置き、部屋を飛び出す。
「一体、なんだっていうんだ・・・」
玄関にかけられているコートを着つつ、カークは悪態をつく。
OT訓練施設敷設ガレージ
「・・・」
カイは、ツールボックスに腰掛けて眉間を押さえていた。
エレベーターが動く音がする。
それに乗っているのは・・・カークだった。
「カイ!一体どうしたんだ?」
既にパイロットスーツを着込んでいるカークは、カイのただならぬ雰囲気を感じていた。
「・・・実は、あるAI式のACが暴走したんです。」
「AI式AC・・・。研究中の物か?」
「はい。それで・・・現在も逃亡中なのですが・・・」
カイは、カークを見上げながら話す。
「ここに・・・ Out Townに向かっているようなんですよ。」
「何・・・だと?」
「それで、カークさんに出撃してもらって・・・撃破してもらおうと思ったんです。」
「何故俺なんだ?俺以外にもっと強いレイヴンが居るだろう。」
カークは何故自分が選ばれたのか、よくわからなかった。不安定な存在でもある自分を選ぶ理由は普通ならば、無い。
「カークさん、あのACを見てください。」
カイは、元カークのACだった『SHOT』を指差す。
「暴走した原因を探っていたら・・・アレに行き着きました。」
「・・・『SHOT』が原因・・・なのか?」
「はい。どうやら『SHOT』に繋がれていた回線から何かが別のACまで伝達したようなんです。」
「そんな馬鹿な・・・信じられん。」
確かに、信じられないことだった。カークは既にAI及びOS等を全て消去していたからだ。
「追跡データはここにあります。」
そう言ってディスクを取り出す。
「私も、何が起こったかわかりません。貴方の暴走に何かが起因しているのかもしれません・・・」
「けど、確かに『SHOT』から何かが出てきているんです。お願いします・・・」
カイは、深々と頭を下げる。カークはそれを起こし、静かに頷く。
「俺だけで抑えれるかはわからない。援軍は用意しておいてくれ。」
それだけを言い残し、カークは『BUSTER』へと向かう。
『SHOT』から抜け出た何か・・・ 自分の暴走に起因する何か・・・
そして、【エグザイル】。
それが何か。カーク自身も・・・知りたかったのだった。いや、知らなければならないのかもしれない。
既に整備を完全に終えていた『BUSTER』に乗り込み、カイの手によって用意されていた輸送ヘリへと向かった。
Out Town 南側ゲート
「守備隊を配備しろ!急げ急げ急げ!!相手は待ってはくれんぞ!!」
いかにも古株の隊長らしき人物が、通信機に怒鳴り込んでいる。
「今回の敵はACだ!研究所から抜け出た暴走ACらしいが、いつもどおりに火線を張るんだぞ!」
『隊長!敵AC『レッドペイン』確認しました!』
「よし、破壊許可は出ている。小隊長の指示に従い、『完全粉砕』しろ!」
『了解!』
そういうやり取りが終わり、隊長はマップへと目を通す。
その時、AC輸送用ヘリの音が聞こえてきた。
「やっときおったか・・・」
『こちらカーク・ショットだ。応援に来た。』
「遅いぞ!レイヴン!早く前線に出ろ!」
隊長の怒号が、『BUSTER』のコクピット内に響き渡る。
『りょ、了解した。』
カークは少し怯みつつも、『BUSTER』とヘリの接続を解除する。自由落下する機体をブーストですっ飛ばし、前線へと向かう。
『カークさん、簡単な敵ACのデータです。参考にしてください。』
『ああ、わかった。』
敵AC名『レッドペイン』 ナインナンバーズ
フロートタイプのAC。真紅にペイントされた『ナインナンバーズ』の機体。
武器は装弾数800発のマシンガンとELF2で、ミサイルも装備している。
また、OBを装備しており超超高機動力を発揮する事が出来る。
『気をつけてください・・・性能はかなり高いです。』
カークが返事をする前に、メインモニタが敵ACの真紅の姿を発見する。
そこには、既にMT守備小隊を破壊した『ナインナンバーズ』が佇んでいた。
「流石高機動・・・という所かッ!」
安定した高機動移動を行う『BUSTER』についてくる『レッドペイン』。
その手から放たれるマシンガンとブレードは、AIとは思えないほどの精度を誇っている。
「喰らえ!」
ロケットを放ちつつ、ブーストダッシュで深緑の体を押し進める。
しかし、左右に機体を振りそれを避ける『レッドペイン』。
機体同士が近づき、マシンガンとショットガンが火を吹く。
両者の機体が傷つき、また同じように高速移動による牽制が始まる。
「埒が明かんな・・・」
ロケットを使い、牽制をしてはいるがことごとく避けられている。
このままではこちらの弾が尽きてしまう。
『・・・クククッ』
唐突に、通信が入る。
「・・・!何者だ!」
『目の前にいるだろォ?』
その通信の相手は、不敵に笑う。
コンピューター音声に近いそれはどこか不気味であった。
「っく・・・!」
カークはOBを使い、『レッドペイン』へと迫る。そして、ダブルトリガーによる超火力を発揮する。
『あ〜あ。だから詰めが甘ぇんだよ・・・』
次の瞬間、『レッドペイン』は飛んでくる『BUSTER』へとOBを使い突撃する。
「なっ・・・!」
衝突する!・・・と、衝撃を覚悟したが一向に衝撃はこない。メインモニタに映っているはずの真紅の装甲は忽然と消えていた。
『ほら・・・後ろだよ!』
ブレードの刃が、身を翻しそれを回避した『BUSTER』のロケットへと直撃する。
「くそッ!貴様はッ・・・一体・・・!」
『ハハハハ!俺かぁ?聞きたいのか?本当に・・・聞きたいのか?『俺』よ。』
「・・・ッ!!!」
『俺かぁ?・・・テメェが知ってるかどうかはわからんが、昔「エグザイル」と呼ばれていた。』
「貴様!『エグザイル』か!!!!」
カークは敵意をむき出しにして叫ぶ。
『ああ・・・俺はこういう存在だからな。』
『ま、オマエの中に今でも『俺』は存在してるけど・・・な。』
『そろそろ終わりにしようぜ・・・俺はもう飽きたんだよ。オマエにな。』
「ふざけるな!」
『BUSTER』はマシンガンを連射し、『レッドペイン』を捉えようとする。
しかし、『レッドペイン』の速さの前に弾は空を貫くだけだった。
『てめぇを殺して!弾丸を奪って!・・・また新しい宿主でも探す・・・』
『俺は永遠に人殺しが出来るんだよぉ!ACと、人間が存在する限りなぁ!』
『ひゃははははははははハハハハハハHAHAHAHAHAHAHAHA!』
狂った笑い声が、通信機に流れる。
「貴様は・・・今ここで、破壊する!」
『出来るかぁ?出来損ないの貴様にッ!』
その時、カークの中の何かが弾ける。一瞬でACの全てを理解し・・・確認し・・・そして、『繋がる』
『BUSTER』のアイカメラが、普段の青から赤へと変化してゆく。
全身の機構が咆哮した。アリーナの時と同じだった。
ただ一つ・・・違っていたのは。
カークが、意識を保っている事だった。
「うおおおォォォ!!!」
OBを作動させつつ、ハンガーからブレードを取り出す。
マシンガンを撃ちまくりながら真紅の巨人へと迫る深緑の巨人。
『あめぇつってんだろォ!』
真紅の巨人もまた、OBを作動させ深緑の巨人を迎える。
2機が接触する瞬間、凄まじいつむじ風が生まれる。
つむじ風というには大きすぎるそれは2機が機体の背後に回りこもうとする動きによるものだった。
『何!?』
真紅の巨人は、右手のマシンガンを構える。
「遅いッ!」
既に構えていたマシンガンを放ち、右腕を蜂の巣にする。
マシンガン共々撃ちぬいたらしくマガジンが爆発した。
その衝撃で真紅の巨人の速度が減衰する。
隙を見逃さず、深緑の巨人は背後に回りこみ渾身の力でブレードをコアへと突き出す。
『うっオオォォォOOOO!!!!』
声とも、電子音声とも捉えがたい音声が鳴り響く。
『バカな!!二度モ貴様に破壊サレルとハッ・・・』
「二度・・・だと?」
貫かれた『レッドペイン』は悶えながらもなおその狂気の声を発し続ける。
『ダGAな・・・オレはまだ貴様のナカにいるンだ!そREを忘れルな!』
『ひゃははははハハハハハハHAHAHAHAH』
耳障りな声を、レールガンの一撃が吹き飛ばす。
『フィールビット』のレールガンの一撃だった。
『カーク、無事!?』
「ああ・・・」
応えたカークは、やっと正気に戻ったような感覚に襲われた。
これが「狂戦士」と呼ばれた自分の力なのか・・・と。
『カークさん、ありがとうございました・・・』
通信機の向こうのカイの声も安心した様子だったのでカークも安堵のため息をつく。
『BUSTER』のアイカメラの色が、青へと戻る。
それと同時にカークの体を物凄い脱力感が襲う。
「う・・・お・・・?」
カークは自分に起こったことが理解できずに、目の前が、意識がブラックアウトしていった。
「よぉ!『俺』!よくNo.3を倒したな・・・見直したぜ?」
・・・貴様は・・・エグザイルか・・・
「ああ、そうだ。俺はNo.0・・・『エグザイルプログラム』で必要とされなかったプログラムだ。」
・・・必要とされなかった・・・?他にもエグザイルが存在するのか?・・・
「簡単に言えば多重人格みたいなもんだがな。それが完全に分裂して・・・俺たちが出来た。お前の中でな。」
・・・お前達は一体何人いるんだ?・・・
「外に出て行ったやつらは、No.1から、No.9までだな。残ったのは・・・いや、出れなかったのは俺だけだ。」
・・・No.0・・・お前は一体何者なんだ・・・
「ま、それはまた今度な。今は・・・彼女を心配させるわけにはいかねぇし。」
・・・彼女?・・・
「バーカ。『俺』の彼女だよ。ウィスティール・クライム!今、お前を揺さぶって泣いてる子だ。」
・・・ああ・・・そうか・・・また泣いてるのか・・・
「そうだ。早く起きてやれ。」
「・・・うっ・・・」
「カーク!」
「大丈夫だ・・・少し、気を失っただけだ・・・」
カークは体を揺さぶっていたウィスティールの涙を拭いてやり、あたりの状況を確認する。
先ほどとほとんど変わっていない。変わっているのは手動であけられたハッチと、ウィスティールだ。
「・・・奴だったのね?」
ウィスティールは唐突に話し出す。
「奴・・・?エグザイル・・・のことか?」
「やっぱり・・・」
神妙な顔をし、虚空を見つめるウィスティール。
「何か知っているのか?」
体の感覚が戻りだしたカークは、ACを戦闘モードから通常モードへと変更する。
「・・・帰ってから、話すわ。」
そう言って、コクピットから出て行く。
「・・・一体何なんだ・・・」
輸送ヘリの音が、開かれたハッチから聞こえていた。
作者:カーク・ショットさん
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