サイドストーリー

ナインブレイカー 〜恐怖の夜 パンプキンキング〜

「ナインナンバーズ事件」が解決した次の日、カークとウィスティールは部屋で話をしていた。
カークは【エグザイル】が自らの中に居た事を認識している。だが、それが何かは未だにはっきりとはわからない。
しかし、あの事件の時ウィスティールはカークとは違い明らかに何かを知っているそぶりを見せていた。
【エグザイル】の謎を解くカギを持つウィスティールを問い詰める。
「ウィスティ。そろそろ・・・【エグザイル】について話してくれないか?」
「・・・【エグザイル】とは、まだ・・・人類がレイヤードに囚われていた頃に存在したあるレイヴンのことよ。」
ウィスティールは語る。過去の【エグザイル】を。

「エグザイルは、超凄腕のレイヴン。フロートACをあやつり、その時のアリーナトップに匹敵するほどの力を持っていたわ。」
「けど、彼が有名だった理由は他にある。『死神』と呼ばれていたから・・・レイヴン同士では畏怖の対象だった。」
「戦場で出会ったレイヴンを問答無用で撃破する。そして・・・負けたレイヴンはほぼ全員が殺されている。」
「あたしの父はレイヴンだったの。とても強かった・・・あたしは尊敬していた。愛していたわ。家族として・・・」
「けど、エグザイルが・・・あたしの父を殺したの・・・それから、あたしは奴を倒すためにレイヴンになろうとしたわ。」
「必死に勉強して、あたしはレイヴンになれた。けど、管理者騒動のおかげで追跡は断念。」
「相棒だった同期のレイヴンも・・・その際に行方不明。エグザイルも同じく消息不明。」
「そして、地上が開放された後に『サイレントライン』近辺で奴を見かけたという情報を掴んだわ。」
「早速そこへ向かった。けど・・・そこに居たのは・・・」
「あたしの、相棒だったの。」


「何で!何で貴方がここに!」
「・・・・・・」
「応えて!」
「俺はもう、アストレイ・シグマではない。」
「・・・!」
「俺は、エグザイルだ。この体は既に私の支配下にある。」
「そん・・・な・・・」
「・・・なるほど。この体は・・・まぁいい。この体に免じて見逃してやる・・・」
「さっさと行くがいい。」
「そんな・・・」
「・・・!衛星砲か!」
「あッ・・・待って!シグマ!」
「さらばだ。ウィスティール・クライム。この体の事は、忘れることだ・・」


「アストレイ・シグマ・・・」
カークは、牛乳の入っていたコップを握り締めウィスティールを見つめる。
「貴方の中にエグザイルが存在していた・・・どういうわけかはわからないけど、貴方は彼のようにはならなかった。」
「あたしが知っているのは、それだけ。エグザイルはどういう方法かはわからないけど人間に進入する事ができる・・・」
ウィスティールは涙を浮かべながら、話す。
「もう・・・愛した人を・・・失いたくないの・・・」
ウィスティールの過去を聞き、カークは彼女が何故自分を助けてくれたのか理解した。
カークの過去がそれだったように、ウィスティールの過去も辛いものだったのだ。
「俺は、死なない。【エグザイル】にも・・・負けない。」
「話してくれてありがとう。ウィスティ・・・」
カークはウィスティールの涙を拭き、彼女を抱きしめた。


AC訓練施設 AC用特別アリーナ   PM9:00

日が落ち、辺りが暗闇に包まれた強化コンクリートのステージ。
アリーナによく似たそれは壁が無く、頑強な柱が数本立っているだけの殺風景な場所だった。
『今回のトレーニングは、悪条件の中でどれだけACと戦闘できるかというものを想定しています。』
『敵ACの装備は熱量を重視しています。敵の攻撃を回避しつつ、敵のAPを規定数以下に減らしてください。』
「ああ。」
カークはこの頃、メニューに無いトレーニングを受けさせられている。このトレーニングもそうだった。
反対側にはいつものようにトレーニング用のACが佇んでいる。手にはプラズマライフルと熱量の高いハンドガンを装備しているようだ。
『では、トレーニングを開始します・・・』
その時。
巨大なミサイルがトレーニング用ACに着弾した。1発・・・2発・・・3発・・・闇夜を照らす爆炎は切れることなくACを破壊しつくす。
戦闘モードを起動させていなかったトレーニング用ACは抵抗するまもなく鉄くずへと成り果てた。
『・・・!?一体何が・・・』
「お客さんのようだ・・・」
カークはそう言いながら戦闘モードを起動させ、レーダーで索敵をする。
ミサイルが飛んできたらしい方向から、敵が悠々と低速ブーストで近づいてくるのがレーダーの光点でわかる。
『カーク・ショット。レイヴンズ・アーク所属のレイヴン・・・だな?』
低い声が通信機から流れてくる。
「ああ、そうだ。」
『貴様を粛清する。ゆくぞ。』
一瞬、淡い光が敵のACを照らした。
その光の正体は・・・WH04HL−KRSW。名銃と謳われたレーザーライフルの発射光だった。
カークはすぐさまブーストを使い、『BUSTER』をスライドさせる。元居た場所はKRSWの光弾によって抉り取られる。
「粛清だと?俺がなにをした・・・」
『俺にとってはそんなことはどうでもいい。私は私の依頼を完遂させるだけだ。』
そう言い放つと、相手は大型ミサイルを放つ。カークには、この戦法・・・この機体に心当たりがあった。
大型ミサイルを巧みな操縦で柱にぶつけ無力化する。常に自分と敵の間に柱を挟み、KRSWの被弾を防いでいる。
「お前は・・・ジャック・Oか。」
その言葉と共に、カークはOBを作動させる。この距離ではマシンガンもショットガンも届かない。
「降りかかる火の粉は・・・払うだけだ!」
その言葉に続くようにOBが火を噴く。『BUSTER』が加速し、敵へと突き進んでゆく。
『それは火の粉ではない・・・大火だ!』
ジャック・OはKRSWを『BUSTER』に向け、トリガーを引く。
「どんな大火であろうと・・・俺は負けるわけにはいかない。全てを飲み込むだけだ!」
『何ッ!?』
『BUSTER』は急角度で進行方向を変え、光弾を避ける。KRSWの光弾はすぐ後ろの柱にぶつかりはじけ飛ぶ。
「アリーナトップが・・・この程度か!」
凄まじいマシンガンとショットガンの火砲。ジャック・Oの重量ACが仰け反るほどの瞬間火力。
しかし、ジャック・Oは冷静だった。
『そうか・・・やはり貴様は・・・』
その言葉と同時に、ジャック・Oは大型ミサイルをパージする。
『今日はここで退く・・・だが、次に会うときは必ず破壊する。』
捨て台詞と共に、大型ミサイルをKRSWで撃ち抜く。大爆発が起こり、レーダー・センサー・カメラが一瞬機能を失う。
「くっ・・・!」
機能が回復した頃には、奴の姿はどこにもなかった。
「粛清・・・と言っていたな・・・。アークめ・・・何を考えている・・・」
後に残ったのは、破壊されたトレーニング用ACと所々抉られたアリーナだった。


Out Town レイヴン居住施設 13−D−5

「粛清・・・ってことは、やはりカークさんが何かしでかしたとしか思えないですねぇ。」
カイはコーヒーを啜りながらパソコンを打ち、何かの情報を引き出している。
「俺にはそんな覚えは、ないのだがな・・・」
カークも自らのノートパソコンから、アークのHPへとアクセスする。
そしてレイヴン用のログイン項目へとカーソルを移動させ、パスコードを入力する・・・が。
「やはりな・・・。」
「どうしたんです?」
「これを見ろ。」
カークはノートパソコンを回転させ、ディスプレイをカイへと見せる。
そこには赤い文字で『登録抹消 パスコード 無効』と映し出されていた。
「これは・・・」
「登録抹消・・・アークが何を考えているかはわからない。だが、何かが起ころうとしている・・・」
「きな臭いですね・・・」
ふいに、背後で扉が開く音がする。カーク達が振り向くとそこには赤髪の女性が立っていた。
「ナー・・・なのか?」
イツァム・ナーもこの施設に居住しており、同じ階層に住んでいた。
いつものパイロットスーツとは違う・・・というより、いつもの印象とはかけ離れたイメージだった。
ツンツン頭を無理やりバレッタでまとめ、乳白色のセーターと紺のロングスカート・・・
元々整った顔立ちだったので、初めて見る人には十分美人に見える・・・だろうが。
最強のレイヴン、戦神と呼ばれた女性がこのような可愛らしい姿をしているのがとてもアンバランスだったのだ。
「・・・くっ・・はははは!一体どうしたんだ?ナー。」
カークは久しぶりに心の底から笑ってしまった。あのイツァム・ナーがこのような姿をして自分の前に現れたのだから。
「うっ・・・私だって・・・たまにはこういう格好もする・・・」
顔を赤らめながら、ナーが俯く。こういう仕草がまたいつもとは違ってカークを愉快にさせた。
「今日は・・・ちょっと、一緒に食事でも・・・誘おうと思って、な。」
さらに顔を赤くしながら、ナーが呟く。その瞬間・・・
「ちょおぉぉっと待ったぁぁあ!」
扉を蹴り開けながら、ウィスティールが駆け込んでくる。こちらは両手に買い物袋を握っていた。
「帰ってきたか。」
「そんなことより!今日はあたしが腕によりをかけた料理を作る日なの!」
「だからカークは外食なんて出来ないの!ナーさんには、残念だけど諦めてもらうわよ。」
「何・・・?本当なのか?カーク。」
「いや、俺は別にそんな約そkふごご!」
「カ〜クぅ〜?あたしという女性がいながら、まさか他の女性とデートしにいくなんてこと・・・し 
な い よ ね?」
口を塞ぎながら、カークの耳元で呟くウィスティール。流石に恐ろしくなったカークは「・・・ああ。」と一言。
「・・・そうか。まぁまた次の機会に・・・」
「次の機会・・・ですって?そんなものは無いわよッ!カークとあたしは付き合ってるんですからね!」
「だが、結婚してはいまい?それなら私もカークと付き合う権利はある。」
まさに、犬猿の仲。ナーとウィスティールの間にはプラズマライフルのような火花が散っていることだろう。
「・・・今日は引き下がる・・・が。私は諦めんぞ。」
一言、ウィスティールのボルテージを上げる発言をしてナーは帰っていった。
まさか、かの戦神がカークに惚れこむとは。
「また、悩みの種が増えちゃいましたね・・・」

カイの言葉がカークの耳にむなしく聞こえていた。
作者:カーク・ショットさん