サイドストーリー

第 † 章「世ハ闇ニ満チテ 〜Despairing Darkness・1〜 福音」
どこをどう逃げるかは、あらかじめ決めていた。だから盗った後はただひたすらに、走った。
裏路地を覆い尽くす闇は、地面にへばりついた吐瀉物や汚物すら溶かして見えなくしてしまう。逃げる立場にある俺には、好都合だ。
細く長く、多くの横道を持つ裏路地の地理は頭に入っている。もっとも、テロやその後数日経って崩壊する建物のせいでその地理も日々書き換える必要があるのだが。
バイヤーの集会に使われる廃屋の横を通り過ぎる。年齢はバラバラだがこの区画においては特徴の無い数人の男が中にいる。生きることを放棄したような様相のくせにやたら瞳だけはぎらつかせた、そんな連中だ。俺も大差はない。そいつらが、全力で走り抜けていく俺を見て奇異の視線を送ってきた。
この間隣の区画でデカいのをぶちかましたテロ屋の住居も、ルート上にあった。すでに居を移した可能性はあるが・・・ともかくここは格別物騒な区画なのだ。その分、俺が身を潜めるには都合がいい。
治安の悪さはトップクラス。それが俺の育った区画だ。
だから絶対に大丈夫。逃げ切れるはずだった。
路地裏に寝転がっていたヤク中が、俺の足を掴まなければ。
あいつはきっと、俺が盗ってきたモノがヤクか何かだと思ったのだろう。涎を垂らし澱んだ瞳で地面に腹這いになって、あいつは笑っていた。反吐が出るような、下世話な笑いだった。ヤクで、頭がアレになっているのだろう。自慢じゃないが、ヤクの類に手を出したことは無い。
腰に吊った皮の鞘から両刃のダガーを、抜いた勢いそのままに斬りつける。何の抵抗もなく、男の節くれ立った右手は手首から切断された。一応赤い血が、申し訳程度に散る。地面に滴り落ちたその血が、ぶくぶくと泡立ったことは気にしない。それがこの区画だ。
感覚がまだ残っているらしく、ソレは悲鳴らしきうめき声を上げた。それでも口元は不気味に引きつらせたまま、残った左手で追いすがろうとしてくる。
迷わず、顔面を踏み砕いて殺した。硬度としては、プラスティック程度だ。
右の眼球が飛んで路地裏に転がり、脳漿が靴底にへばりついた。しかし最期まで、鼻から上を失ってなおその気味の悪い笑みは口元から消えなかった。
足を掴まれて転んでから殺すまで、10秒もかかっていない。
それでも、致命的な遅れだった。
急ぎ逃げようとした瞬間に響いた、乾いた破裂音。拳銃だ。
弾は脇腹の辺りに命中した。悲鳴は噛み殺したが、焼けるような痛みで視界がブレる。
そうして俺は、本能だけで駆け出した。一歩踏み出すごとに汗が噴出し、血が溢れた。それでも駆けた。路地を曲がり、下り、また曲がり、よじ登り、駆けた。ダガーと、今日の“戦利品”である「特別なクスリ」の細長いビンをしっかり握ったまま。
そしてやけに大きく、豪勢な(割にはボロい)扉のある建造物の前に辿り着いた。
今や目に映る物全てにもやがかかり、徐々に視野そのものが狭まりつつあった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・くっ。まずい、な・・・」
もう、限界だった。
失血量からして、どの道死ぬだろうということは分かっていたと思う。それでも、俺はもう何も考えられなくなっていて、どうしようもなくて。
―――ただ、休みたかった。
体を預けるようにして、その扉を開く。酷く重い。立て付けが最悪であることを示す軋みの音が、耳に響く。
最初に眼に入ったのは長い通路の先にある、壁に掛けられた十字架。逆に言えば、それしか見えなかった。幾本かの蝋燭が壇上の空間だけを、そこだけ闇から切り取ったように照らしている。
そこは、教会だった。昔物乞いをやっていた頃、こことは違う教会に幾度となく訪れた。ちなみにそこの神父は数年前に身包みを剥いで殺した。その神父が、ある程度育った子供を企業に実験材料として売りつけていることを知った、その日の出来事だ。
神などというものは、信じたことがない。また、信じる気もない。ヒトがもし皆平等なら、俺の記憶の9割が盗みと殺人で占められているというのは、どういうことか。
そんな俺が最期に行き着いたのが、よりにもよって、ここか。
「ハァ・・・ハァ・・・ハ、ハハ・・・ハハハハハ・・・」
あえぎが転じて、笑いがこみ上げてきた。その笑いに血の味が混じっていることは無視して、笑い続けた。
ふらふらと、十字架の前まで歩み寄る。一体何歩分の距離だったのか分からない。それほどに意識がボケてきていた。
そこにいるのはもちろん、磔にされたガリガリの男。
無様だ。俺より無様だ。
俺が死ねば、誰かが喰う。3日以上死体が残って晒しものになることはない。ところが何を思ったか知らないが、この男は死後何千年もこんな像を作られ続けて、自らの死に様を晒している。
「ハハハハハ・・・ハハハハハハハハハハハハハッ!!」
壊れたように、俺は笑い続けた。いや、実際壊れていたのだろう。
自分がまだ生きているということを実感するには、もうそれしかなかった。いや、特に理由があって笑っていたわけでもない。出血量がある程度以上になると、ハイになるというのは本当だったらしい。
気が付けば、手も足も動かなくなっていた。いつ地に臥したのかさえも、定かではない。視界も、もうだめだった。
ただ耳だけが、俺の哄笑―掠れ、笑い声よりも流れ出る血のごぼごぼという音の方が大きいくらいだ―を捉えていた。それもやがて、聞こえなくなった。
そして俺は、二度と這い上がることの出来ない暗闇に堕ちていった―――はずだった。


怖い。怖いよ、どうしよう。刃物、持ってるよぉ。
あの人、笑ってる。きっとクスリとかで、頭がアレになっちゃってるんだ。一瞬見えたとき、左手に持ってたのって多分クスリのビンだし・・・。
怖いよ・・・。
と、とりあえず、この子達は裏口から・・・あぁだめだ。この間のテロで先の道が潰れたから、逃げられない。
でも、このままここに一緒に残ったら、きっと殺される。
どうしよう。どうしよう・・・。
・・・そうだ。
私が囮になって、誰か分からないけど、あの人を引き付けよう。あんまり意味は無いかも知れないけれど、くっついて噛み付いたりして、とにかくこの子達が逃げる時間を稼ごう。
「みんな、聞いて」
後ろで、私以上に震えている子供たちに小声で話しかける。
「お姉ちゃんがあの人とお話してる間に、パスさんの所に行くの。いいわね?」
即座に、
「マリアおねーちゃんは、どうするの?」
答えられない質問を、掠れた声で発したのはミリーだ。私は聞こえないフリをした。
「行くわよ。みんな、準備して」
あ、丁度いい。教会の補修用にもらっておいた角材が残ってる。誰も大工仕事ができなくて放置してたけど、まさかこんな形で使うことになるなんて。
神様、お許し下さい。この子達を守るためなんです。一度だけ、暴力をお許し下さい。
「マリア姉ちゃんっ」
必死にしがみつこうとしてるのは、シズね。ほら、男の子なんだから、しっかりしなさい。
私は角材を手にとって、一度だけ振り向いた。暗がりの中に、3人の子供達がいる。皆、一様に麻色のローブを着ていた。服にかけるお金は、ほとんどないから。私とて同じ物のサイズ違いだ。
ミリー、私と同じ栗色の髪をした、かわいらしい女の子。この中では、一番小さい子。
シズ、この辺りでは珍しい、黒い髪。でも何故か眼は、片方青かった。
ほら、ミリーもシズも、泣かないのっ。・・・これからは、私抜きで生きていかなきゃいけないかも知れないんだから。
・・・ステラ、ちゃんと手入れすればきっと綺麗な長い金髪と、強い眼を持った子。
あなたが一番お姉さんだから、この子達をお願いね。きっとパスさんも面倒を見てくれると思うけど、あの人は、ほら、ちょっと、あれ、だし、ね?
ステラは、泣いていなかった。瞳に涙を溜めてはいたが、流しはしなかった。
そう、それでいいの。
いつの間にか、笑いは止まっていた。逆に今度は、静けさが不気味だった。
「ほら、行くわよ・・・」
ステラが、2人を立ち上がらせる。
そう、それでいいの・・・。
私は予想以上に重かった角材を片手に、礼拝堂への扉を押し開けた―――


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・トクン。
「ぉ・・・?」
気の、せいか?心音が、聞こえたのだが。
「おお、もう眼が覚めたのかい?一晩で起きるとは、大した男だな、君は」
心音の次に聞こえたのは、嬉しそうな男の声。年は・・・少なくとも俺よりは上だ。ただ、声を弾ませているために実年齢より若く聞こえているのだろう。
「あれだけ失血していたからな、さすがに無理かとも思ったが・・・。本当に、大した男だ」
助かっ・・・た?
「ぅ・・・」
生きていることを意識すると、瞼を割いて入り込んでくる光が眩しかった。
「あー、まだ動かない方がいい。意識が戻っても、血は戻っていない。輸血用の血が足りなくてね。貧血でぶっ倒れるぞ」
「ぁ・・・?」
イマイチ、記憶がはっきりしない。教会に入って倒れて、それからどうした?いや、そこで途切れていて正しいのか?
「君には聞きたいことがいくつかある。金はいいけど助けた礼として、それくらいは答えてくれよ?」
ああ、いいだろう。その程度なら、安い物だ。いくらでも喋ってやる。金を取らないとは、どんな神経をしているのか知れないが。
どこか間延びした、ぽーんという音が聞こえた。
「お、客だ。私は少し離れる。まぁ、診察が終わるくらいまでは休んでいるといい」
イスのクッションが軋む音と、衣擦れの音。・・・上着でも着たか。
床・・・硬質の、少なくとも打ちっ放しではない床だ。それを叩く、やはり硬い靴の音。それなりに、まともな生活をしてるらしいな。
「もし起きられたら、それを飲むといい。ちょっと強いかも知れないが、よく効く。未成年とか、そういうのは気にするな」
ぱたん。
・・・行ったか。
「ふぅ。重傷なフリってのも、疲れるな」
実際の所「ぅ・・・」の時点で体は完全に覚醒していた。目覚めた瞬間に人を殺せるくらいに体が動かないと、生きてはいけない。そういう場所で生きてきたおかげで、寝ぼけるという幸福な状況は味わったことが無い。
腰の辺りの痛みは・・・驚いたことに、ない。
体を起こし、まずは左腕に刺されていた点滴を根元から引っこ抜く。微量の血が滲むが、その程度の痛みを痛みと感じるほど、俺の体は繊細に出来ていない。
寝ていたのは、これまで見た中では間違いなく一番綺麗な白いシーツのベッド。そして、恐らく入院にも対応した白く清潔そうな部屋。大きめの診療室、といった所か。ベッド横に丸いテーブルとイス。奥には洗面台と、なにやら得体の知れない機材が置いてある。
自身は、上半身裸。下は、そのままだ。一週間ほど前に盗んだジーンズを穿いている。
少し距離はあったが、洗面台に映る自分を眺めてみる。ややきつい蒼い眼が、静かに見つめ返していた。ダガーで適当に切っているために長さがバラバラな脱色したような茶髪(地毛だ)と、やたら白っぽい肌。何も違いは無い、それだけだ。
少々顔色が悪い気がするが・・・撃たれたばかりで血が足りないのだ。当然と言えば当然だろう。明るすぎる照明のせいもあるかもしれない。
ベッドの横の丸いテーブルには、上に着ていた黒いシャツ(こちらは三日前だ)と、液体の入った褐色のビン、口の部分に逆さにかぶせられた小さなグラス。ラベルの文字は、異国のもので読めなかった。
・・・が、これは万国共通だろう。
「68%ってのは、景気よく火が着く度数だぞ・・・」
あの医者・・・「気つけ」のつもりだろうが、撃たれたての人間に飲ませる物じゃ、ないと思うぞ。
ふと、腰の傷に触れてみる。包帯も何も巻かれていない。それ所か、
「傷が、ない?」
まぁ、ありえない話ではないのだが。
以前盗んだ、やたら高い医療用のクスリ「T−バイロン」は細胞の分裂を局所的に異常活性させるというものだった。用量を間違えると分裂の発熱で大火傷をするという、劇薬だ。
その時は組んでいた片割れにクスリを預けて陽動に徹したが、結局そいつが逃走ルートを間違えると言うヘマをやらかして撃ち殺された。結果として、全て無駄となったわけだ。
まだ記憶に新しい事件だ。半年程度しか経っていない。
それ以来俺は、グループに入ることも誰かと組むこともしなくなった。
ともかくそれ以外に、こんな芸当ができる代物を俺は知らない。だが、本当に俺にそれが使われたかというと、疑問が残る。
「あれだけ高価なモノを使って、金を取らないっていうのは・・・」
もしそうなら、感謝だけはしておこう。だが、それだけだ。それに今回俺が盗ってきたクスリも、その系統に属する。というよりむしろ、上位版に当たる。もしかすると、そのまま希釈して使われたのかも知れない。
酒は無視してシャツを取り、広げてみる。やはり、腰の部分に小指の先ほどの穴が開いている。
着てみると案の定、血の臭いが染み付いてしまっている。当然ながら、ジーンズの方にも赤黒い結晶が張り付いていることだろう。
(また、近いうちに盗む必要があるな)
返り血を含めて血塗れになるのは慣れているが、好んで嗅ぎたい臭いではない。
ベッドの横に、いつだったか殺した男(これに関しては、確か正当防衛だった気がする)から剥いだ靴が置いてある。かなり頑丈な作りの、レザーシューズだ。サイズがぴったりだったのが幸いして、俺の所持品の中ではダガーの次に息が長い。
・・・そうだ、ダガー。あれだけは、何としても見つけておく必要がある。
部屋をざっと見回すが、それらしきモノはない。
ひとまず靴を履いて立ち上がり・・・腰にぶつかる、重量感のある物体。
「・・・まさか、治療中も吊ったままだったのか?」
危険だから、と隠されているのはめんどうだが、これはこれでどうかと思う。
この区画において、あの医者は余りにも無防備だ。これでは、殺して剥いで下さいと言っている様な物だ。それとも、余程自信があるのだろうか?
いや、そもそもここは何区画だ?最後はどこをどう走ったか覚えていない以上、判断がつかない。
(どうでもいい、か)
そのまま立ち去ろうかとも思ったが・・・やはり、血が足りないらしい。足元がおぼつかない。
再び体をベッドに落とし、酒に目をくれてみる。さすがに、これは飲む気にならない。そもそも酒は判断力が鈍るから嫌いだ。
(仕方ない、もう少し寝ているか・・・。思えば、こんなベッドは初めてだな)
薄く笑みを浮かべ、ありがたくカビは生えていないし、スプリングもイカレていないベッドを満喫することにした。

かちり。

「・・・・・・・・・」
それは、ドアノブを回す音。慎重に、音を立てないように。・・・といっても、モロに聞こえているわけだが。
ドアに背を向け、先ほど抜いたままになっていた点滴のチューブを引き込む。同時にダガーを腹の前に素早く手繰り寄せて、グリップを握り締めた。もちろん、いつでも抜けるように準備しているのだ。
静かに、ドアが開かれた。衣擦れの音と軽い足音だけを響かせて誰かがこちらに向かってくる。
ベッドの前で、止まった。俺はベッドの寄せられている壁を睨みつける。そいつの影が写っているのだ。それほど背は高くない。むしろ、低い。先ほど薄目で確認しておいた医者ではない。
(さっそく追って、殺しに来たか?そんなにあのクスリが大事か。あいにく、手元にはないがな)
しばらく、そのままの状態が続いた。俺が誰なのか、確認しているのだろう。
静寂。
不意に、そいつは腕を振り上げ―――
肺に溜めた空気を一気に吐き出して、右手に握ったダガーを振り向きざまに突き上げる。
「へ?」
間の抜けた声と、若い女の顔。点になった緑の瞳。振り上げた腕の先の手は、軽く握って額に当てられている。何も、持っていない。
「―――っ!?」
自分の右手を、残った左手で迎撃。全力で。手加減なし。むしろ折るくらいの勢いで。
ギリギリ、胸に突き刺す手前で止まった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
沈黙。
その間に、相手をじっくり観察してみる。
俺より多少若いであろう、女だ。麻か何かで編んだ、この辺りでは珍しくも無いローブを着ている。目は、確かに緑だ。今は、点になっている。髪は栗色で、肩に少しかかるくらいの長さだ。セミロング、とか言ったか。振り上げた腕は、そのまま固まっている。
「その、なんだ。悪い。確かに人は殺すが、無駄には殺さない。安心してくれ」
言ってから、胸中でぼやく。
(胸元にダガー突きつけて言うセリフじゃないな、どう考えても)
ついでに言うと、ローブが僅かに裂けている。本気で、危なかったらしい。
女は、大きく息を吸い込んだ。叫ばれるかとも思ったが、そのまま深々とため息をついた。
「あの、その、えと、じゃぁ・・・腕、下ろしてもいいかな?」
「あ、あぁ」
ほっ、と息をつき、女は腕を下ろした。
今度は複雑な、要するに笑おうとして見事に引きつった表情で、
「えっと、ね。その、尖ったのも下ろしてくれるとうれしいなーとか、思ってたりして」
「・・・」
とりあえずダガーは鞘に戻した。こんなものを突きつけたまま話すのは、脅しの時だけで十分だ。
「まぁ、とりあえずこれでも飲め」
急に動いたせいか、頭がクラクラしていた。体も、猛烈にダルかった。それでも何とか身を起こして、酒瓶を取る。
・・・正直、自分が何をやっているのかよく分かっていなかったと思う。
「ほい」
「ど、どうも」
掌に収まる程度の小さなグラスに少量注いだ琥珀色の液体を、女は一気に飲み干した。あちらも、それはそれで動揺していたらしい。普通飲むか、見ず知らずの男に突然出された酒を。
「ぁ・・・ぉう?」
「?」
その変化は突然だった。女の瞼がぱたりと閉じられ、手にしたグラスが地面に落ちて転がった。体が、ぐらりと傾ぐ。
「なっ・・・」
そしてそのまま、倒れ込んできた。結果として、押し倒された。今急に動いたのが祟ったか、押し返す力が入らない。とんでもなく軽いのだが、それでも無理だった。
「くー」
何というか、いきなり幸せそうだった。
「・・・まさか」
信じられないほど軽い女の下で、うめく。
あの医者、何と言っていた?確か「ちょっと強い」とか「よく効く」とか、言ってなかったか?
「効くってのは、つまり・・・」
これ、睡眠薬入りなんじゃないのか。
戻ってくるまで寝てろ。もし起きられたら飲め。つまりどうあっても俺を逃がさないつもりだったのか、あの医者。
「・・・毒見、ありがとう」
「くー」
一応分類的には「毒」に属する薬品を盛られた哀れな少女は、やっぱり幸せそうに眠っていた。
と、ドアからひょいと顔を出した男がいる。うっすらと笑みを浮かべ、その男は口を開いた。
「おや、彼女に飲ませたのかい?女の子に睡眠薬飲ませて、何をするつもりだったのかな」
・・・とりあえず、この策謀家にダガーを投擲することから始めてみようかと思う。


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「彼女はマリア。ここに住んでいる。今年で・・・15だったかな?君の命の恩人、ってことになるだろうね。君が教会で倒れていたのを、私に教えてくれたのはマリアだよ」
ベッドの大半を占領して健やかに眠っている女を指して、男は薄い笑みを浮かべながら話す。
俺はベッドに腰かけ、男はイスに。向かい合って座っていた。
「そうか」
辛うじて理性が本能を上回った結果(ナイフを投げる以前に女がどけられなかった結果とも言う)、この男はまだ生きている。
名前はパスロット=コーシュン。ここで開業医をやっているらしい。年は35から40程度だろう。茶の髪を短く刈り込んだ、痩せ型の男だ。
白衣が似合う、と言えば聞こえはいいが、要するに不健康そうだ。よれたシャツの上に灰色の地味なベストを着ている。ズボンも同じく灰色だ。
全体的に、どこかズレた雰囲気がある。人のことは言えないが。
「パスと呼んでくれ」と言っていた。「先生と呼ばれるのは、あまり好きじゃない」とも言っていた。
じゃあ、こう呼ぶしかないな。酒の礼もある。
「パスロット先生」
「・・・。なんだい」
微妙に嫌そうな顔をしたが、すぐにひっこめて薄い笑みを浮かべた。どうも、この顔が素の顔になっているようだ。
「俺に聞きたいことってのは、何なんだ?」
「ああ、それか・・・」
パスロットは白衣の下の冴えない灰色をしたズボンのポケットから、細長いビーカーに栓をしただけのような小瓶を取り出した。ラベルも何もない、ただのビンだ。
それは、俺が昨日盗み出した「特別なクスリ」だった。中には半透明の青い液体が入っている。
「君はこれを、どこで手に入れた?」
真面目な口調だった。顔の方も、真剣そのものだ。目元の緩い表情だっただけに、この変化には多少驚いた。いくら演技をしても、目元に現れる本性は中々偽れないものだ。
「どこ、と言われてもな。それが盗める場所は、ここらじゃ一箇所しかない」
「それは、どこだい?」
パスロットは、恐らく知っている。その上で、確認しているのだろう。その時点である事実が判明する。
「パスロット、あんたミラージュの関係者か」
自然と、右手が腰のダガーに伸びる。
俺がその「特別なクスリ」を盗ってきたのは、ミラージュ社支店の薬品保管庫だ。
そもそもこの辺り一帯は、ミラージュの管轄下にある。関係者がいても何ら不思議は無い。
何も言っていないが、パスロットには分かったらしい。
「やはり、あそこから盗んできたのか・・・。報告では単身だったということだが、実際は?」
「そのままだ。グループに入るのは、大分前にやめた」
正確には「T−バイロン」の強奪に失敗した時だから「大分前」というのは言い過ぎだが、基本的に日暮の俺のような人間にとっては「大分前」だった。
「ほぅ・・・あそこに、1人でか。つくづく、君は凄いな」
心底驚いているのか、その目が光を帯びる。そこには少年のようなあどけなさと、猛禽類のような鋭さが同居していた。間違いなく、この射抜くような眼光がこの男の本性だ。
「そりゃどうも。で、それがどうかしたか」
あくまでも、ダガーから手は離さない。
「このクスリが何なのか、そこまで知っているのかい?」
「ああ。最近、こっちの世界じゃそれの噂が出回っててな。“ヴェスタルシン”の濃度が90%を越える、とんでもない劇薬が開発されたってな」
「ヴェスタルシン」とは、恐らく俺の傷にも使われたであろう細胞分裂を活性化させる劇薬「T−バイロン」の成分のひとつだ。
「ヴェスタルシン」は細胞分裂を活性化させ、傷口を急速に塞ぐ効果を持っている。しかし余りにも強力な為、他の成分でその効果を薄めたのが「T−バイロン」。それでも用量を間違えれば、だ。
「どう考えても、まともな使い方はしないだろうと思ってな。売れば高値が付きそうだったから、盗った」
それも厳密に言えば、前回の意趣返しの意味合いが強い。結局また失敗したわけだから、返せていないが。
「そういった知識や情報は、どこから?」
「知識に関しては、生きていくのに必要だったから覚えた。それだけだ」
「じゃあ、情報は?」
「・・・言うと思うか?」
それもそうだ、とパスロットは肩をすくめた。特に追求してくるつもりはないらしい。まぁ、そうした所でダガーを一閃してここを出るだけだが。
「それで提案なのだが、これを私に譲ってくれないだろうか?」
「何・・・だと」
「もちろんタダとは言わない。安全で清潔な住居と、食事も保障しよう。衣服までは金が回らないが、ある程度は可能だ」
そこで視線を俺の後ろ、マリアという少女に向ける。
「つまりその子や、」
今度はドアの方を振り向き、
「あの子達と同じ扱いになる、ということだがね」
『あ』
3人分の呟き。
(さっきからちょろちょろ頭出したり引っ込めたりしてたやつらか)
つまり、最初から気付いていたわけだが・・・隠れているつもりだったのだろうか?
「ちょっと・・・」
「ん?」
パスロットがちょいちょい、と手招きした。耳を貸せ、ということらしい。
(確かに、僕はミラージュ薬品部門の研究員だ。訳あって、ここで医者の真似事をしている。研究だ、と言えばかなり融通が効くポジションでね。この子達を預かっているのも、僕の一存だ。だがその辺のことは、この子達には秘密にしておいて欲しい。それも君を預かる条件に入れてくれ)
理由は知らないがその「特別なクスリ」が欲しい、と。恐らくは、何か研究にでも使いたいのだろう。いくら融通が効くとは言え、さすがに最新の激ヤバ薬品まで取り寄せることはできないのだろう。
例えばクスリだけ奪って、俺を放り出したとする。そして万が一、ミラージュに俺が捕まったとする。その際にクスリの所在を吐かれたら困る、というのが俺まで預かろうという理由だろう。
逆に考えれば、俺を事実上匿うというリスクを犯してでもそのクスリが欲しいということだ。それほどの価値がクスリに、少なくともパスロットにはあるのだろう。
ギヴ&テイクが成立する以上、完全に信用しさえしなければありがたい話ではある。不穏な動きがあれば、逃げればいい。
「わかった。その話に乗る」
パスロットは満足気に小さく頷くと、再びドアの方に声をかけた。
「入っていいよ」
少しバツの悪そうな顔をしたのが2人。何も分かって無さそうな、ちっこいのが1人。
3人はパスロットの横に並んだ。
「紹介しよう。この子がミリー。今年で5歳だったね?」
「はいっ」
すぱっと、気持ちよく右手を上げて答えたのがそのちっこいの。何が嬉しいのか、笑っている。
「元気だろ?・・・で、こっちがシズ。9歳だ。女の子みたいだろ?」
「む・・・」
シズと呼ばれた男は、微妙な顔でうめき声をあげた。気にしているらしい。
年齢的に、男女差は少ない。しかしそれを差し引いても、性別がイマイチはっきりしない顔だった。
(なるほど、確かに女と言っても通用するな)
顔に出ていたのかもしれない。シズの顔が険しく・・・というより、拗ねたような顔になった。
「そしてこの子がステラ。12歳になったばかりだ」
「・・・」
「割と無口な子だが・・・ま、かわいがってあげてくれ」
「え・・・」
ステラの第一声はそれだった。当然の反応だろう。少なくとも俺よりはよっぽど人間的な生活をしているのだ。不審者、しかも教会で血塗れになって倒れていたような男には、かわいがられたくないだろう。立場が逆なら、俺だって嫌だ。
ちっこいの、ミリーが俺を見上げる。顔には非常に分かりやすく疑問符が浮かんでいる。
「おにーちゃんも、いっしょ?」
・・・意味を汲み取るのに数秒を要したが、つまり俺も一緒に住むのか、と聞きたいらしい。
「まぁ、そういうことになるな」
「ふあぁ〜」
何が「ふあぁ〜」なのか知らないが、喜んでいるように見えなくもない。そして、
「ふえた〜」
・・・つまり、家族が増えた、とか、そういう意味だろうと思う。見ているこっちが気持ちいいくらいの満面の笑み、というやつだ。まさか自分に、こんな顔が向けられることがあるとは思わなかった。
悪い気は、しない。
「よろしくな」
手を伸ばして、ミリーの頭に軽く手を置いてやる。少し毛が荒れている気がするが、俺よりはマシだろう。
「ふひひ〜」
妙な声で鳴きながら、小さな両手で俺の手を掴んだ。
「ミリーには気に入られたみたいだね。よかったよかった」
喜色満面、といった風にパスロットが大げさに頷く。
「そっちの2人は、そうでもないみたいだけどな」
シズもステラも、沈黙を守っている。むしろ、俺を睨みつけるようにして見ている。好意的でないのは確かだが、
「正しい判断だ。どれだけ人が良さそうに見えても信用しないに限る。騙されるのがオチだ」
話を聞く限り、どうやら俺は元いた区画から随分と離れた所まで走ってきたようだ。ここいらではどうか知らないが、少なくとも「あっち」ではそれが常識だ。
「まぁもっとも、俺の場合は人が良さそうにすら見えないがな」
「そう自分を卑下するものじゃないよ」
苦笑しながらパスロットはそう言って、
「ところで、そろそろ自己紹介して欲しいんだけどな」
「ん・・・?」
「君の名前だよ。なんだかんだで、まだ聞いてない」
俺にとっては、不意打ちに等しい質問だった。
「好きなように呼んでくれ。何せ俺には―――」


「名前、ないの?」
「ああ、ない。これまでは適当にナナシとかアオメとか呼ばれていた」
客が来たので、パスロット以下3名は部屋を出て行った。3人はここで手伝いをしているらしい。
それからしばらくして、やっとこいつは起きた。昏倒した理由を説明するのは面倒だったので、とりあえず「酒の免疫がなかったんだろう」ということにしておいた。実際飲むのは初めてだったらしい。
しばらく反応を窺ってみたが、ミリー同様どちらかと言うと歓迎するつもりのようだ。
とりあえず昨日のことは「強盗に遭って、逃げてる時に撃たれた。笑ってたのは、意識が飛びそうでおかしくなってたからだ」と説明した。一番重要な部分が嘘だが、残りは事実だった。
それにしても無茶苦茶な説明だが「あ、そうなんだ・・・。ごめんなさい、私変な勘違いして」と、あっさり信じた。
(まず間違いなく“変な勘違い”の方が真実に近いだろうな)
そうこうしている内に、結局この話題になったわけだ。
「うーん、じゃあ、何て呼べばいい?」
「好きなように呼んでくれ」
「そう言われても・・・」
マリアという名の少女は、俺の横で腕組みして「うーん」と唸っている。真剣に、考えているらしい。
「あ、それじゃあね・・・ちょっと教会行ってくる」
「何故そうなる。カミサマにでも聞く気か?」
マリアは少し弾みをつけて立ち上がって、振り返る。それこそミリーのように、妙に嬉しそうに笑っている。
・・・ただ、先の酒がまだ効いているのかも知れない。足元が、少々危うい。
「私、結構神様の声聞こえたりするんだ。昨日もね、お祈りしてる時に聞こえたんだよ」
いやに上機嫌に宣言してくれた。
本当に、カミサマにお伺いするつもりらしい。しかも、聞こえると言っている。つまり、
「お前、電波か」
「酷い・・・」
突然しゅん、とうなだれてしまった。分かりやすい。
しかしすぐに顔を上げる。微妙に、涙目になっていたりはするのだが。
「と、とにかく、聞いてくるからっ」
「やめてくれ」
「何で即答・・・。だ、大丈夫だよ?別に変なクスリとか飲んでる訳じゃないし、お酒だって、」
「さっき飲んだな」
「ぅ・・・」
途端に、眉を寄せてうめいた。元々白い顔から、さらに血の気が引いた様に見える。
「気持ち悪い、かも・・・」
これ以上いぢめても、あまり意味はないだろう。明日二日酔いでも、俺じゃなくてパスロットを恨めよ。
ふと、思い出した。
「そういえばお前、さっき何しようとしてた?」
「何・・・って?」
手を軽く握って額に当てて、再現してやった。マリアはしばらくそれを見ていたが、
「ああ、それはお祈り。十字を切ろうとしてたの」
ほら、と額から胸、左肩から右肩へ。簡単に十字を切って見せた。
「この人が生きててよかった、感謝しますって」
・・・これはどうも、俺が名前をカミサマに聞くことを嫌がる本当の理由を教える必要がありそうだ。もう、そのままとしか言い様がないが、
「俺は、カミサマってのが嫌いなんだ」
そう言って、腰のダガーを抜いて見せてやる。例の浮浪者の腕を切断した部分に、まだ血が付いている。
「これ見て、分かるか?」
「へ・・・?」
黒光りする両刃の短剣。奇妙な紋章や呪術的な文字が刀身に並んでいる。これは、ただのダガーではない。
「“アセイミ”、だよね?」
「聞いといて言うのもなんだが、よく知ってるな」
「魔女の短剣・・・色々、呪いとかに使うやつ、だよね?」
「それを模してるのは事実だな。だから気に入った。実際には、ただのダガーとしてしか使ってないがな」
鞘に戻した途端、マリアが小さく悲鳴のような声をあげた。
「どうした?お告げでも受信したか?」
俺の軽口にも乗らずぼうっと俺の顔を眺めている・・・その目が妙に、据わっている。口が、僅かに動く。
「名前決定」
「は?」
今度は少し嬉しそうに、歌う様に言葉を紡いでゆく。
「汝の下に降り立つは、黒き刃を朱に染めたる堕天の子。然れど、其は汝の福音と為らん」
「・・・やっぱり電波か」
「昨日聞いた、声だよ」
パスロットが座っていた椅子に座り直し、俺と向き合う形を作った。そして勢い込んでやや身を乗り出し、声のトーンを上げた。
「意味はね・・・私の前に、黒い剣を血で染めた人が現れる。その人は、私に幸せをくれるだろう、ってこと。ね、どう考えてもあなたのことでしょ?」
「血染めの福音ってのも、中々にシュールだな。それで幸せになれたら尊敬する」
せっかくの力説をあっさり流されたことに不満を感じたか、頬を膨らませる。こうもコロコロ変わると、見ていて飽きない。そういえば半年前に死んだあいつも、こんな風に表情をよく変えていた。
「う〜」
「唸るなよ」
「とにかく、あなたの名前は今日から“エヴァンジェル”で決定っ!!略して“エヴァ”ね」
びしっ、と鼻先に指など突きつけられつつ、
「エヴァンジェル・・・だと?まんま“福音”って意味だろう、それ」
ナナシやアオメもそうだが、恐ろしく安易なネーミングだ。それはともかくとしても、カミサマが嫌いだと言っているのに、敢えて「そういう」名前をつけるとは。・・・「電波」発言の仕返しか?
「好きなように呼んでくれ、でしょ?」
「・・・」
そういえば、そんなことを言った気がしなくもない。
「はい、決定ね。ふふ♪」
マリアは本当に嬉しそうに、部屋を出て行こうとした。ドアの手前で一度振り返って、頭に手を置いてやった時のミリーのような顔をした。
「みんなに名前を教えて、それからあなたの部屋を用意してくるわね、エヴァ」
・・・そういうわけで、俺に名前が付いた。
―――Evangel・・・福音という、俺には余りにも似合わない名前が。




――――――――――――――――――――


「とりあえず終わったな」
「終わったね」
「1ってことは、まだ続くのか」
「うん。噂の作者メモによると“福音”の次は“慈悲”らしいよ」
「・・・。俺はあえて何も言及しないようにしよう」
「それにほら、これって“レイヴン・エヴァンジェ誕生秘話”なわけでしょ?まだあなたは“エヴァンジェル”だし、最後の“ル”が無くなる理由とかがきっと語られるのよ」
「だといいがな。ところで、ACはどこにいった?アーマード・コアの気配も“ミラージュ社”という名詞以外にないようだが」
「ああっ、パスさんがまたアブナイ目つきでミリーを見てるっ!?」
「話を逸らすな。・・・いや待て、何だその“また”ってのは」
「あ、そっか。エヴァはまだ知らないんだよね・・・」
「・・・・・・・・・。そういえば、最初の教会のシーンでも妙に気にしてたな」
「何で知ってるのかは、私も聞かないよ。パスさんはね、色々とアブナイの」
「だから、どの辺が」
「“ステラは無表情だけど、だからこそ微妙な意思表示がいじらしくてd(゜∀゜)イイッ!”って言ってたし、“シズは男の子なんだけど女の子みたいで無理して男の子しようとしてるのがどうしようもなく愛らしくて(;゜∀゜)=3ムハー”って」
「・・・・・・・・・ミリーは?」
「それはもう、一直線に“ぷにっとした頬と、ほえほえっとしてるのが犯罪的に(;´д`)ハァハァ”と」
「貴様の方が余程犯罪だと、何故誰も糾弾しない」
「その話題には、あんまり触れたくないんだ・・・。今ある幸せを崩したくないって言うか」
「なるほど。今一度皆を預かっている理由を問い質す必要がありそうだ。で、マリアの評価は?」
「へっ、私?わ、私は・・・・・・・・・あれ?」
「どうした」
「えーと、えーと。何も、言われてないような気がするの」
「つまり、ヤツのツボにハマるようなファクターは持ってなかった、と」
「それって、どういうことなのかな」
「要は、魅力がないってことだろう。というより、主に年齢制限だな」
「え・・・私って、魅力ない・・・?」
「お前の考えているような“魅力”とヤツの求める“魅力”には大幅なズレがあるがな」
「えっと・・・じゃ、エヴァ的には?」
「まぁ、胸は小さいな(ヤツ的には、むしろプラスのファクターだろうがな)」
「ま、まだこれから大きくなるもんっ!!たぶんっ」
「ムキになるな。というか“たぶん”とか自分で言ってて哀しくならないか?」
「ちょっと、なった・・・」
「まぁそれはそれで、需要があるからな。心配しなくても大丈夫だろう」
「うぅ、それも何かやだよぅ・・・」
「ともかく、飯だ。そもそも、そのためにキッチンにいるんだろう?」
「あ、そうだった。えっと、材料は・・・っと・・・お、ぁ?」
「どうした、急に固まって」
「あの、ね。そのぉ・・・買ってくるのまた忘れてたみたい、材料」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「とりあえず読者に感謝して終わらせとくのが無難だと思う」
「そ、そうだね。コホン。え〜、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。今後の展開に期待・・・は余りしないでお待ち下さい。それでわっ」
「かなり強引で唐突なまとめだが、しかたがないだろう。とりあえず買い出しだな」
「うん、ごめんね・・・」
「おや、二人で密談かい?」
「あ、パスさん・・・」
「・・・前言撤回。俺はこいつをシメてみようと思う。その間に行ってきてくれ」
「わ、分かった」
「ん、何だい?僕は大きな男に走る趣味はないよ?せめてシ―――」
「・・・・・・・・・」
「わああぁっ!?エヴァ、無言でアセイミ抜くのは怖いからやめてぇ!!」


To Be Continued…?
作者:クロービスさん