サイドストーリー

VOL,1  軌道上降下部隊
頭上に逆様に写る蒼い惑星。何とも奇妙な光景だ
軌道上座標22657、輸送降下船デッキ上から見える幻想的な景色に俺はしばし見とれていた
惑星に下りる、地面に降り立つ。なんて甘美な言葉だろう
何しろ我々人類が地上に降りたつ日が来るなどつい数ヶ月前までは誰も予想だにしなかったのだから
誰もがあのプラント船の中で生まれ、成長し、死んでいった。
我々の祖先が母星を離れて200年。今ではそれは形骸化されたデータが残るのみで、真実を知る者は既に世を去った。
極限状態の我々が遂に手にした唯一の希望、それに誰しも狂喜した。そして今一刻も早く地を踏みしめることを渇望している。
敵も・・・そして俺自身も

「レイブン、まもなく降下を開始します。戦闘モードを解除、船内に格納します。」
戦闘補佐官の女性オペレーターの声で我に返る。
現在降下船は惑星の磁気ベルト内を進んでいる、この特殊磁気の中は大概のセンサー類が機能低下を起こす。
その為俺は非武装の輸送降下船の甲板にタンク型ACをアンカー固定し、砲台の代役を務めていた。
もっとも宇宙空間では下手な発砲で船ごと慣性移動しかねない、その為無反動のパルスライフルのみの簡易構成だ。
大気上では脅しにしかならないが、無酸素状態の此処ではこれで十分だ。
しかしそれも杞憂だった様だな・・・
「まって!右舷同座標に非友軍コードの宇宙船を多数確認!接近してきます!!」
オペレーターの緊迫した声が響いた。
慌ててモードを再起動させたディスプレイに銀色に光る一群が写りこむ。
特徴ある流線型のフォルムとあの忌々しい青のエンブレム
ミラージュの武装強襲艇だ!
奴らの4連想パルスキャノンは中型船程度なら楽に仕留める威力を持つ、ましてやこの輸送降下艇など・・
「オペレーター!突入までの残り時間は!?」
その間にも浮遊隕石を間を縫いながら強襲艇が急接近してくる、機能低下状態でFCSはまだ使い物にならない
「あと約3分です!時間経過でACを強制格納しますので、何とか迎撃をお願いします!」
普段は冷静なオペレーターの悲痛な叫びが響いた
無理も無い、通信障害区域での作戦の為、今回は彼女も船内に乗り込んでいるのだ
奴等も考えたものだ。ACさえ格納させれば船は丸裸、効率よく迎撃するには最適のチャンスだ。彼等も馬鹿では無い
唯一の救いは強襲艇が大気圏突入能力を持ち合わせていない事。それまで食い止めれば勝機はある!
FCSを無視して俺はパルスライフルを連射した。
2.3発外れた後、先頭の1機に命中する。姿勢制御不能の強襲艇はそのまま浮遊隕石に突入、閃光と共に岩石が四散した
音も、爆炎さえもない静寂の結末。大気と言う遮蔽物が無い此処では汎用武器も絶大な威力を持つ。
仲間が破壊されるとみるや、敵は四散展開して襲いかかって来た
FCSが回復し、俺は狂った様にパルスライフルを乱射した。たちまち眩い閃光が幾つか発生する。如何やら敵のFCSは
未だ機能低下状態らしい、しかし此のままでは・・!
船は巧みに浮遊隕石を避けながら慣性航法を続けている、だが再加速は不可能。そんな真似をしたら突入時に黒コゲだ
ディスプレイに表示されたカウントダウンは残り2分10秒・・時間経過がこれ程遅く感じたことは今までなかった。
ベテランの船長は俺が最適な迎撃体制が取れる様に船を巧みに制御する。アンカー固定状態では彼の技量だけが頼りだ
残り1分30秒・・・


昨日のブリーフィングの後、俺は船長とオペレーターの3人で会食した。60に手が届く彼は少し照れながら自慢の孫と言い
オペレーターの彼女を紹介した。初めて対面した彼女はまだ幼さを残した女性だった。
彼は少し興奮気味に呟いた。まさか生きているうちに孫と一緒に地上に降り立てるとは思わなかった、と。
そういい終わると彼らは子供の様に微笑んだ。邪険の無い顔で・・・


突然左方より青い閃光が走り、ACの足元に命中した。クレストのエンブレムが吹き飛び、赤の破片が四散する
撃ち漏らしの強襲艇が尚もパルスキャノンを斉射する。甲板の破片がACに叩きつける中で俺は残弾を全て奴に撃ち込んだ
船を穴だらけにした代償として、奴は閃光と共に消滅する。
「ピーッ、ピーッ!」
システムエラーメッセージ音で我に返った俺は周囲の状況を見て思わず戦慄した
格納ハッチが・・・破壊されている!
同時に急激に重力状態が全身を覆っていく・・・
カウンターは既に0を指していた。 一息ついた俺は瞬時に自分の最後を理解し、静かに眼を閉じた。

「レ・レイブン、聞こえますか。敵は追跡を断念して帰還しました!・・・・あ、あのそれで・・」
オペレーターの言葉を遮って、俺は静かに呟いた。
「・・状況は把握している、今すぐ格納部分をパージして突入シールドを展開しろ」
「レイブン!!」
悲痛な声を遮り、俺は続けた。ヒロイズムに酔っている訳ではない、最後の最後まで傭兵で在りたいだけだ。
「早くしろ、グズグズしてると船ごと丸焦げだぞ」
「!・・・・・・!!」
言葉を詰まらせたオペレーターの替わりに船長が後を続ける
「感謝する・・・・すまない」
沈んだ艦長の声に俺は努めて明るく言い返した
「気にするな、俺は只のレイブンだ」


衝撃と共に俺のACは大気圏内に投げ出される。蒼色に輝く惑星が眼前いっぱいに広がった
そう、俺はレイブンなのだ、キチンと結果が出せたのだから、之で良いじゃないか。
惑星が摩擦熱で赤色に変わる中、俺は静かに笑った



                    軌道上降下部隊 完
作者:キングスフィールドさん