サイドストーリー

VOL,03 道化師
ゆっくりとACを乗せたエレベーターが上昇を始めた
暗闇の中で俺はシステムの再確認を行う。
調子は上々だ
次第に大歓声が聞こえて来る・・



  ヴァーダイト 艦上特設大闘技場  通称 「ランカーアリーナ」



やっと此処まで上り詰めた実感がこみ上げて来る。
しがないC級ランカー達にとって、15位以内のみ使用が許されたこのアリーナは羨望の的だ。
同期の殆んどの者が此処を目指し、あがき、消えていった。
だが俺はやっとAランカーの称号を掴んだのだ
この手を血塗れの悪事に染めて。


「御来場の皆様、御待たせ致しました。ただ今より本日の第三戦目を・・・」

アリーナの場内アナウンスで我に返る
モニターをライブ中継画面に切り替えると、いきなり俺と愛機のプロフィール画面が飛び込んで来た。

前日に取材を受けた際の映像が映し出されている。
ミラージュメインの特徴ある青の流線型ボディの愛機をバックに、得意げにポーズをとる俺の姿。
きっとミラージュの担当官もご満悦だろう。
「あの提案」を俺が快諾した事の何よりの証なのだから。

先日まで俺はミラージュの依頼のみをひたすらこなしていた。それも暗部といえる仕事ばかりを。

通称「腐肉狩り」
コーテックスからの依頼内容を、ミラージュ側にリークし、他企業の作戦が終了したところを叩き、戦果を奪い取る。
直接支払いの高額報酬も魅力だが、それ以上に邪魔者のランカーACを安易に仕留められる事が最大の魅力だった
幾ら強者のAランカーといえども、戦闘で疲弊し、残弾も底を付いている状態ではひとたまりも無かった。
懐は金で膨らみ、邪魔者は楽に消えてくれる。これほど美味しいやり方は他にないだろう。

機体は全てミラージュ側が用意してくれ、コーテックス側にそこから足が付く心配も無かった。
ミラージュの特別機体には上位ランカー御用達の特殊機能が満載されている。
コレも俺の腕以上に戦果を挙げてきた理由の一つだった。

通称、「OP−INTENSIFY M」

いわゆるイレギュラーパーツで、太古にキサラギが製作した特殊パーツの派生型だ
一番の魅力は二脚移動状態からのキャノン発射機能とジェネレーターの特殊補正能力だろう。
反面、各パーツの寿命を極端に縮める為、通常依頼で使っていたら大赤字だ。
だからランカーACになると殆どの者が現役を退き、損耗費用主催者負担のアリーナでの活躍に固執する。
・・そして俺もミラージュの宣伝マンとして生きる提案を受けた。


モニター画面が切り替わり、一転して地味な機体が映し出された。

ランカー11位の「シュバルツ」。
クレストの中量二脚で構成された面白みの無い堅実な機体構成。
ダークグリーンと黒色の塗装がそれに拍車をかけている。

「シュバルツ」と「ヴァイス」はアリーナ界でも有名な双子ランカーだ。
弟のヴァイスの方は、ランカー3位の花形エースで、御多分に漏れずアリーナでの活躍に専念している。
機体も人気のミラージュベースで、ゴリ押し重視の派手な武装と塗装を身に纏う。

対して兄のシュバルツはランカーでありながら未だに通常依頼を好んで受ける実戦派だ。
仕様もリニアライフル、背部ミサイル、ブレードと教科書通りの汎用構成。
本気でアリーナに入れ込んでいる訳ではないらしく、挑戦を依頼のためにキャンセルする事もしばしばで、
その為順位は10位近辺をいつもウロウロしている。

まぁそこそこの実力者ではあるが、1対1のアリーナ対戦では決め手に欠ける構成だ。
実際短期決戦には弱く、何度か新参ランカーの後塵を浴びる事もしばしばの対戦成績である
加えてこの兄弟は妙なこだわりがあり、決してOP−INTENSIFYを使用しない事で知られている。
愚直な正直者ぶりは何でもありの俺にとっては唯の道化師でしかないが・・・


場内アナウンスが終了し、クルーがACのセイフティーバーを解除するのと同時にモードチェンジを行う

「OP−INTENSIFY TYPE-M  戦闘モードを起動します」

AIの声が響き、愛機が咆哮を上げ始める。
まるで俺の前途を祝うかの如く。
背部のレーザーキャノンへウエポンモードを切り替え、ヤツに向き直る。
悪いがオマエもコーテックスも、俺の成り上がりの第一歩の獲物だ


カウンターが0になると同時に、俺はEOを同時発動させながら奴に襲い掛かった・・・






         << グローバル・コーテックス  本日のアリーナ結果速報 >>

略) 〜の結果で本日も大方の対戦は予想通りの展開となりました。
   トップは変わらずエースの○○○、大方の順位の変動も無く、安定したオッズ展開の一日でしたね。
   しかし、ここはランカーアリーナ。次回はどんな大波乱が起こるかわかりませんよ!
   次の大当たりを手にするのは貴方かも!?
   
   それでは次回の開催でまたお会いしましょう!

                                    グローバル・コーテックス アリーナ運営局

  
 ※補足:本日の対戦でランカー11位の「シュバルツ」と対戦した新人の△△が残念ながら対戦中に
     シュバルツの左腕突出ブレードがコクピットを直撃し、事故死いたしました。
     期待していたランカーを失った事は、われわれコーテックスにとっても非常に残念でなりません。
     試合はシュバルツが劣勢の中、思わず放ったブレードのまぐれ当たりが勝敗を決めました。
     これだからアリーナは何が起こるか解りませんね。
     しかしご安心下さい!次は彼を上回る期待の新人がまたデビュー予定ですよ。
     プロフィールはまだヒ・ミ・ツ♪
     次回のオッズに大波乱が起こるかも!? 皆さん見逃すと大損ですよ!!!
     それでは次回もどうぞご期待ください!

                   VOL,03  「道化師」 完
作者:キングスフィールドさん