サイドストーリー

Guardian 02(B)-目覚め
五年前、僕はレイヴン養成学校を卒業した。
レイヤードでの義務教育は6歳から12歳までで、その後は自分で将来の仕事に合った専門学校へ行くのだ。
もちろん行かなくても就職はできるが、その場合は給料も少ないし、ほとんどの会社はそういう若者を受け付けなかった。
だから、結果的には15歳まで大抵の人間は学校に通っている。
僕は幼い頃に親の勝手な志向でクレストの社長がついでに経営していた学校に入学させられた。
そこでは管理者に従うことばかりを薦められた。幼かった僕たちはそれに抗う術が無く、どんどん管理者を信仰する者が増えていった。
そんな中、僕は管理者を信じきることができず、同じような考えの仲間と連んでいた。
すぐに六年経過し、僕達は卒業したが、みんな志は同じで、レイヴン養成学校に進路を決めた。
しかし、入学試験に合格したのは僕と仲間の内の一人、フラジャイルだけだった。
それでもめげずに、僕とフラジャイルはレイヴンとしてのウデをどんどん上げていった。
根っからの管理者嫌いだった僕たちは管理者の悪口を言い合ったりしてお互いに励まし合っていたのだ。
その学校では管理者の信仰は自由で、教師の前でも何を言っても咎められなかった。
卒業前には二人ともクラスの首席になっており、将来を期待された。
進路希望では、フラジャイルは傭兵の道を歩むと言い切り、専属レイヴンになってみないか等の薦めも全て蹴った。
僕は、自分のウデに自身がなかった。クラスの首席だからといって自信がつくわけではない。
自分より強いレイヴンは世の中にごろごろいるというのに、フラジャイルはよくあんなことを言ってられるな、と思っていた。
そこで、専属レイヴンになることを決意し始めた僕に、教師は言った。
管理者の実働部隊になってみないか、と。
そのレイヴンになることのメリットといえば、他の企業のレイヴンに比べると給料が格段に高い。
しかし、人気がないのには理由がある。実働部隊は今までに戦死している数が多い。
それでも、励ましに励まされた僕に、決定的な転機が訪れた。
母が、病で残り命は2年と宣告されたのだ。
もともと貧乏だった僕に無理してまで学校に行かせてくれた母に恩返しがしたかった。
実働部隊になればお金がたくさんもらえる。就職先は決まった。
実働部隊でのし上がるためには、僕はどんな手でも強くなりたかった。
学校の総下校時間が過ぎても、僕は先生に頼んで練習に練習を重ねた。キサラギが極秘に開発したチップも手に入れ、僕の頭に埋め込んだ。
フラジャイルも励ましてくれた。いつも練習に付き添ってくれたし、たまに家に来て母の看病を手伝ってくれたりもした。
卒業後、僕は実働部隊入試を合格した。そのことには対しては喜びを感じなかった。
しかも、僕が実働部隊になってからは、フラジャイルと連絡が取れなくなってしまった。
重要なのは、これから生き残ることなのだ。
その後に僕の名前だった『アルテス』は捨てられ、代わりに『ネーム:053』と名付けられた。
僕は憤慨したが、どうしようもなかった。
僕はまだ管理者を信じてなどいなかった。周りは管理者のことを褒めちぎるような奴らばかりだったから、いつも頭が痛かった。
そして僕はそれなりに昇格し、ある指令を受けた。いきなり頭に響いたあの音にはさすがに驚いた。
「クレスト施設研究所 22:30 壊滅させよ」
何故クレストの施設の破壊命令を下したのかわからなかったが、僕にはどうでもいいことだった。

研究所に入ると、派手に辺り構わず攻撃した。
僕のACの銃撃で壁や設備が壊れる感覚はなかなかの物だった。
警報が鳴り、特殊MTが何体か出てきたが、赤子の手を捻るよりも簡単に撃ち落とした。
すると、シャッターが開き、先程とは違うMTが出てきた。
おそらくこのMTには人が乗っているのだろう。さっきの特殊MTとは違うのだ。
「人・・・か」
少し戸惑ったが、相手のMTはそんなことを構わず、攻撃してきた。
MT程度の銃撃ではチップを埋め込まれた強化人間が乗っているACにかすり傷一つつけることはできない。
そのMTをグレネードで一撃、粉砕した。
人が一人死んだことに僕の胸が少し痛かった。だが、間髪入れずもう一体敵が現れた。
今度はACだ。緑の色に四脚、装備は貧弱だ。
そのACが壊されたMTを眺めている。様子からすると、友達だったのだろうか。
ふと、フラジャイルのことを思い出した。しかし、今はそんなことでほのぼのしているわけにはいかない。
ブーストを吹かし、緑のACに接近した。
すると、そのACのパイロットが突然回線をつないできた。
「てめぇ!!よくもコールハートを殺しやがったな!!許さねぇ!!!」
その声を聞き、僕は愕然とした。この声は、フラジャイル。
「お・・・お前、フラジャイルか!?こんなとこで何して」
懐かしの親友に呼びかける僕の言葉は途中で途切れた。
フラジャイルがライフルを乱射してきたのだ。僕はそれを全弾受けてしまった。
「な、何を・・・」
「うるせぇ!!コールハートを・・・コールハートをこんなにしやがって!!!」
フラジャイルは我を失っているようだ。
「僕だよ!ネーム:053・・・じゃないアルテスだ!」
必死で弁解する。
「黙れ!」
今度はパルスキャノンに武器を持ち替え、撃ってきた。今度は避けた。
「わからないのか!?僕だ!」
僕は一切攻撃を加えなかった。何とかして話をしたかった。約一年前に行方不明となった親友と。
だが、邪魔が現れた。MTが数体くちらに向かってくる。
「くっ・・・MT共か!」
グレネードで一気にカタをつけようとした。
MTに砲口を向け、撃とうとしたそのとき、砲弾の軌道上に緑色の影が突如出てきた。フラジャイルだ。
MTが来たことにまったく気づいていないようだった。
「危ない!」
僕は叫んだ。
もう撃ってしまった。
その弾はまっすぐに突き進んだ結果、フラジャイルのACのコアに直撃した。
「ぐあっ!」
フラジャイルのACのコア自体のダメージも計り知れないものだったはずだが、何よりも問題なのはその熱量だ。
「熱い!熱い・・・!・・・ボ・・・ボボ・・・ヅヅヅ・・・ツーッツーッツー・・・」
断末魔の叫びと共にフラジャイルの命は僕の炎によって奪われた。
真っ白だった。今、何が起こったのだ?なぜ目の前のACは燃えているのだ?
なぜ、こんなにも熱いのだ?
確かに僕の体は炎のように熱かった。まるでフラジャイルの亡霊が包んでいるかのごとく。
死んだ?フラジャイルが?まさか。あのフラジャイルが僕の砲撃程度で死ぬわけがないさ。
これは夢だ。幻覚だ。何もなかったんだ。
後少ししたら目が覚めてフラジャイルと一緒に学校に行くんだ。そうだ。そうだろ?フラジャイル。
はやく僕を起こしてくれよ。
フラジャイル・・・フラジャイル!
「フラジャイル!」
僕の中で全てが霞んだ。
あたり構わず撃ち込んだグレネード弾はこの施設自体を崩壊させつつあった。
ぐらぐらと床が揺れ、埃が落ち、壁に亀裂が走り、ごごごごっと地震が起こったような音がする。
でも、どうでもよかった。頭の中は真っ白なままだ。
これから、どうすればいいんだ。

あの後、先輩方が僕を救出してくれた。もし先輩達が来なかったら僕は確実に死んでいただろう。
でも、頭の中は真っ白だ。真っ白なのだ。
生ける屍と化した僕がいたのは、管理者の部屋だった。
研究所での活躍ぶりは大いに評価され、実働部隊の中でもほぼトップだった。
そんな僕がこんなところでぼーっとしていても誰も気にしない。それだけ僕は偉いのだ。
給料もたくさん手に入ったが、母はもう危篤状態だ。
何もかもがうまくいかない。ただ皮肉るように実働部隊での僕の地位が上がっていく。
ふと、管理者を見た。
大きな柱であるそれは、僕を哀れんでいるように見えた。
なぜか僕は、気配を感じた。管理者の中から。
人間の匂いだ。なぜ管理者から?
あの柱が割れると桃太郎のように赤ん坊が生まれてくるのかな?などと考えていた。
すると、いきなり管理者の部屋の扉が閉まった。
僕はそれに驚いたが、どうでもよかったので、床に腰を下ろした。
すると、管理者のすぐ横のコンピュータが起動し、つらつらと文章がつづられている書類を開いたような画面を映し出した。
何かと興味をそそられて画面を覗くと、それは驚くべきことだった。
「・・・何だって?」

それが、四年前、僕の目覚めたときだった。あのお方の正体を知り、今まであのお方をバカにしていた自分を許せなくなった。
目の前に昔の自分がいたら殺してやりたい程に。
あのお方は人間なのだ。それが何百年も生き、全ての命を守り、見つめ、苦悩していたのだ。
そんなお方を崇拝せずにいられようか。
僕はあのお方のこと以外のことがどうでもよくなった。あのお方のためだけを考え、行動した。
他のことは忘れた。なぜか簡単に忘れることができる。
リオ=クラヴスに関する資料をプリントし、それを眺めながら僕は微笑んだ。
そう。忘れたのさ。
親友を殺したことさえも。
作者:Mailトンさん