メロスは親友のセリヌンティウスのために、 そして自分のために走った。すっごい走った。・・・と、その時・・・ 「ああ、メロス様。」 うめくような声が、風と共に聞こえた。 「誰だ。」 メロスは走りながら尋ねた。 「フィロストラトスでございます。貴方の親友セリヌンティウスの弟子でございます。」 その若い石工も、メロスの後を走りながら叫んだ。 「もう駄目でございます。もう間に合いません。走るのをやめて下さい。 もう陽が暮れます。あの方をお助けになることは出来ません。」 「いや、まだ陽は沈まぬ。」 「ちょうど今、あの人が死刑になるところです。 あなたは遅かった。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら・・・」 「いや、まだ陽は沈まぬ。」 「やめて下さい。走るのをやめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。 あの人は、あなたを信じておりました。 王様が、さんざんあの人をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、 強い信念をもちつづけておりました。」 「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。」 まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った・・・・ 「・・・ちっ!」 フィロストラトスは舌打ちをした。 もれもそのはず。先のフィロストラトスのとった行動は、すべて演技だったのである。 「セリヌンティウスが死ねば、石工の主人はこの俺だったのに・・・。 メロスもメロスだ。いつもは単細胞ぶりを発揮しているというのに・・・ こういう時だけ引っかからないなんて!」 こうして、フィロストラトスの野望は空のかなたへと消え去ったのであった・・。 「・・・今夜もコンビニ弁当か・・。」 |